デッドマンズクルス


対応機種プレイステーションVita(PlayStation Store)
発売日2015/02/24
価格0円
発売元スクウェアエニックス

(c)2014 2015 SQUARE ENIX
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ファイナルファンタジーのアクティブタイムバトルの生みの親、伊藤裕之が企画したソーシャルカードゲーム。

スタミナを消費して探索エリアを進めると、お金と経験値、たまにガチャ(ハント)チケット、アリーナ参加証が手に入る。
ガチャチケットを使ってカードを集めデッキを組み、アリーナ参加証を使って他のプレイヤーと腕試し(対人戦)というのが基本的な流れ。
いわゆる、基本無料のソーシャルカードゲームのなかでも最もポピュラーでオーソドックスなスタイルの作品だ。

これの前に同じスタッフで「ガーディアンクルス」というゲームを作っており、世界観やグラフィックを刷新しただけで、ゲーム内容はほとんど同じもののようだ。
ただ、グラフィックに関しては、2Dから3Dとなり、ハント場や探索エリアのフィールド描写がポリゴン(3D)化されており、見た目に関してはかなり豪華になっている。
続編を名乗っていないが、続編と思っていいぐらい色んな部分を踏襲しており、かつ、洗練された作品だ。

基本無料のこの手のカードゲームは構造的にお金儲け主義が非常に色濃く、ゲームとしての面白さは二の次になってしまいがちである。
例えば、カードイラストを萌え系や美少女を売りにしたものにしてみたり、課金を促すようなゲームバランスにしてみたりする。
これ自体を悪いとは言わない。なぜなら、基本無料でサービスしている以上、どこかで採算を取らなければ事業が成り立たないからだ。
しかし一方で、このようなゲームに嫌悪感を示す人が多数存在しているのも事実だ。そしてそれは仕方のないことといえる。

そんな中、この「デッドマンズクルス」は、ゲームの面白さを重視した結構異質なソーシャルカードゲームだ。
もちろん、他でもゲームの面白さを追求した作品は沢山存在するだろう。だが、この「デッドマンズクルス」ほど綺麗にまとまって面白く成功している作品はなかなかないと思う。

基本無料のゲームは、基本無料であるがゆえに、ゲームとしての面白さみたいな部分はどうしてもおざなりにならざるを得ない部分がある。
遊んでもらいながら、途中途中でプレイヤーからお金を引き出すというシステムであるためだ。
そうなると、収益化を考えた時に、とてもわかりやすいモデルが必要となる。
それが、カードイラストの絵柄の魅力だとか、有利にゲームを進められるような性能を持った課金アイテムみたいなものに偏っていく。

ここで目の肥えたゲーマーだと、露骨なやり方に冷めていってしまうのだ。
なぜそういう思考に行ってしまうのかというと、単純に面白くないものにお金は出せないということだろうと思う。
この手のゲームは、間口を広くするためにシンプルに作られることが基本となっている。
しかし、シンプルというのも物は言いようで、複雑なものよりはシンプルなもののほうがわかりやすくて良いとは一概には言えないのがゲームの世界だ。

要するに、ゲームとしての面白さみたいなお金になりそうにないわかりにくい部分にコストを掛けて作りこんだってしょうがないから、そこそこの所で形にしてしまう。
そこで、目の肥えた人たちにしてみれば、スマホのソーシャルゲームなんてお金儲けの道具に成り果てていてあんなものつまらないとなってしまう。

「デッドマンズクルス」は、まずゲームとして面白くあるべきという逆転の発想で作られている。
ゲーム内のカードやアイテムの価値というのは、土台がしっかりしているからこそできてくるという考え方だ。

カードバトルゲームとしての作りはとにかく本格的だ。
パラメーターは、HP、MP、攻撃力、防御力、素早さ、賢さの6つで、それぞれにしっかり意味がある。
カードにはタイプが設定されており、タイプによって初期パラメータが異なっている。つまり、同じカードでもタイプが違うとパラメータも違って来る。
さらに、ドーピングアイテムで各種パラメータを底上げして強化できる。同じレベルでもドーピングしているかしていないかで強さが変わってくる。
他にもお馴染みの転生(LV限界突破)や、覚えさせるアビリティを取捨選択させるなど、なるべく個体差を付けさせる工夫が見られる。
ポケモンを参考にしたような節がかなり見受けられるが、ともかくタイプで初期パラメータが微妙に違っているというやり方は明朗快活でわかりやすく、非常に感心させられた部分だ。

そしてカード集めにも一工夫加えられ、より一層ゲームの魅力を高めている。
ただチケットを集めてガチャという名の福引を回すのではなく、ミニゲーム形式になっている。
スナイパーライフルのスコープを覗き、デッドマン(ゾンビ)に照準を合わせてハント(射撃)する。1回の制限時間は60秒。
FPSをガチガチにやり込んでいる人が優位に立てるみたいな感じにはなっていなくて、単純ながら奥深いこのゲームならではの戦略性を要求される内容になっていて非常に完成度が高い。

豪華なミニゲームを入れてくる基本無料のゲームも増えてきたが、いくら豪華でもゲームのテーマと合っていないと上滑りを起こして、つまらなくなってしまう。
だが、本作のガチャとハント(FPSミニゲーム)の親和性はおどろくほど高く、無理矢理感もない。目の付け所の高さに驚嘆するばかりだ。
ノーマル(無料ガチャ)チケットでウルトラレア(星5)が出ることもあり、それを体験した時の嬉しさったら、他では中々経験できない。

このゲームのメインディッシュは、アリーナでの対人戦である。
対人戦と言っても直接リアルタイムにマッチングして戦うのではなく、他のプレイヤーが登録したカードデッキと戦うことになる。
10体のカードデッキを組み、デッキの順番通りにカードが登場し1対1で戦っていくオートバトルだ。
対人戦に関しては、勝てるプレイヤー勝てないプレイヤーが極端に分かれてしまわないように、かなり気を遣っており、最もバランス調整に苦心している印象だ。
具体的なやり方としては、5つのランクで分け、下位ランクでは参加条件にプレイヤーレベルを設けて、レベル保護を行っている。一定のレベル以上になると下位ランクのアリーナには参加できない仕組みだ。

LV70までレベルによる保護が行われているが、レベル保護が外れると、とたんに難易度が跳ね上がってしまう。
LV70以上は、それなりに長くプレイしないとなれないのだが、それでもレベル保護から放り出された直後は一時的に勝率が大幅に落ちるために、非常に苦しい。
順位による報酬は、その厳しさを加味したものとなっているが、このへんの舵取りは本当に難しいと実感したものだ。

強いカードを集めて、単に最強デッキを目指すだけでは、それだけでも面白くはあるのだが、物足りないゲームとなる。
謎のウイルスによってゾンビ(デッドマン)にうめつくされた奇妙な世界を描いたクエストを攻略していくのも目的の一つ。

ゾンビだらけの世界になってしまった謎を追っていくメインとなるストーリーもあるが、壮大な物語ではなく特別扱いもしてない。
バーに寄せられる悩み事(クエスト)を聞いて解決していくというのが主だった構図になっている。
これが中々、登場キャラクターやテキストのクオリティが高く、分量的には非常に短い文章でしか語られないのだが、短いやりとりの中でもちゃんとキャラが立っていて筋書きも面白い。
「シュタインズゲート」のダルそのまんまのオタクキャラなんかが出てきたり、荒廃した暗いイメージとは裏腹にコメディ色たっぷりで、適当にケレン味もあって興味をそそられる。

クエストには、スタミナを消費してクリアする探索クエストと、ハントクエストの2種類あるが、どちらもゲームとして上手に出来上がっていて好感触。

探索クエストは、いわゆる他のゲームの探索エリアの探索と同じようなものだが、途中に分かれ道があったり、小部屋に入れるドアが出てきたり、様々なギミックが用意されている。
それのおかげで、基本はボタンを押しているだけなのだが、まるでRPGのダンジョンを探検しているかのような本格的な感覚を味わえる。
クエストのストーリーも極力単調作業を飽きさせない配慮が見られて、とても頑張っている。

ハントクエストは、ガチャのミニゲームを使ったクエストで、特定のデッドマンを数体捕まえるといった条件を満たしてクエストクリアを目指す。
ガチャのミニゲームは運任せの要素が強いので、なかなかクリアできなくてもどかしくなる時もあるが、ただ漠然と繰り返すよりかは、退屈せずに楽しめて良い。
「一度に10体以上ハントしろ」といった、技量を問うようなクエストもあり、制限の多い中でなるべく楽しませようと言う努力の跡が見られる。

クエストの数は膨大で、メインクエストだけで130ほどあり、さらにサイドクエスト(隠しクエスト)が結構な量ある。
サイドクエストはメインクエストでイベントを発見しないとリストにのらないのだが、普通にやっていると2回プレイしないとまず発見できないものがあったのが面倒くさかったのでなんとかして欲しかった。

これの他に期間限定イベントが隙間なく行われる。
はっきりいってメインクエストを進めたいから、期間限定イベントは少し間を開けてやって欲しいと言う贅沢な悩みを持ってしまうほどだ(同時進行できないために遊ぶヒマがない)。
期間限定イベントも、バリエーション豊富な作りで質が高い。
勿論、長期間遊んでいると、それでもパターン化してしまうし、イベントによってはさじ加減を間違えたのか、シビアな(苦情を言いたくなるような)ものもある。
だがネタがないからと安易なコラボに走ることがないのと、イベントの筋書きが毎回ちゃんと面白く作られていて、出来が良い。
コラボは、自社作品では一つもなく、カプコンの「バイオハザード リベレーションズ」だけだ。自社作品でコラボしないのは世界観に合わないからだろう。その潔さも素晴らしい。

少々褒め過ぎな気もしないでもないが、やはりそれだけのポテンシャルを持ったゲームだと感じた。
確かに、基本無料のゲームなので、無課金で遊ぼうとすると苦しい場面も出てくる。
例えば、期間限定イベントが全部時間内にクリアできず、最高報酬を手に入れるのが難しいとか、デッキを強化するのに時間がかかるなどだ。
しかし、無課金でいい思い出来るゲームのほうが正常ではないという考え方なので、今の状態が完璧にゲームバランスがとれているとまでは思わないが、これぐらいが良好のバランスだと思う。

あと、ゲームのサービスは年単位でずっと続いていくが、プレイヤーとしては数ヶ月もプレイすれば正直な所モチベーションは落ちてくる。
どれぐらいの期間飽きずに楽しめるかというのは人によるから一概には言えないが、一つのゲームを数ヶ月(スタミナ制とはいえ)楽しめるというのは、通常の感覚では長持ちしている方と言えないだろうか。

ゲームとしては奇をてらった部分は特に無く、予算もそれほどない中でやっているというのがわかる出来映えで、それこそ巷にあふれるソーシャルカードゲームの基本だけで作られたようなゲームだ。
しかし、開発者の調理の仕方次第で、特に変わったことをしなくても基本だけでもいくらでもクオリティの高いゲームが作れるということが実感できるほどの存在感を醸し出すものとなっている。

とにかくソツのない作りで、洗練されたユーザーインターフェイス、一言で言うならば甘美、クールビューティといった独特な魅力を持った色鮮やかなカードイラスト、様々な場面でどっしりとした安定感を見せる。

これだけクオリティの高いゲームなのだが、日本では残念なことにあまり話題になっていない。
それどころかダウンロード率ではアメリカに負けているほどなのだ。

理由としては幾つかあるだろうが、「ガーディアンクルス」とあまりにもゲーム内容が酷似していること、このような直球なソーシャルカードゲームが飽和状態になって日本では既に飽きられているなどが挙げられる。
日本人受けしにくい内容だろうとは思うが、それでもこれだけのゲームが受けないというのは率直に寂しいと言わざるをえない。

プレイステーションVita版は、動作不安定で、長時間プレイしていると処理落ちが起こってまともにプレイできなくなる。
特に、強制終了のエラーが特定箇所で頻発するのは致命的(度重なるアップデートで改善されつつはある)。
頻繁にソフトを起動し直すことでこれらの動作不良を回避できるが、はっきりいって面倒くさい。

Unityを使って制作されているのだが、UnityのVita版がどうやらかなりひどい開発ツールらしく、容易に移植できるように思わせて、欠陥だらけだったということが原因だったらしい。
Vitaの本来のスペックならもっと快適に動かせるはずなのに、Vitaのマルチコアを使わず1コアだけでしか動作しないらしく、それで思った以上に移植作業が難航したっぽい。

何はともあれ、スマホのゲームをコンソールゲーム機へスムースに引っ張ってくる流れはとても良いことだと思うので、この流れが加速することを期待したい。そこで結論。

カードゲームに偏見を持っている人にこそ遊んで欲しい一作。ゲーム屋なら基本無料でもこれぐらいの物は作って欲しい。





[2015/06/02]
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