アイドルマスター DearlyStars


対応機種ニンテンドーDS
発売日2009/09/17
価格5980円
発売元バンダイナムコゲームス

(c)2002-2009 NBGI / 窪岡俊之
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Xbox360で発売されるや否や、一躍ヒットタイトルに急成長した「アイドルマスター」のニンテンドーDS版。
移植ではなくキャラクターを一新した完全新作。今度は876(バンナム)プロに所属するアイドル3人が主役だ!

今回は家庭用ゲーム向けに企画された作品ということで、間口が狭くなるだけだった育成シミュレーションお決まりのゲームシステムであるターン制限を撤廃し、代わりにストーリー性を強化しており、物語を読んで楽しむ比重が強まっている。そのため、ジャンルも「アドベンチャーゲーム」に変更されている。

まず、システムやシナリオ進行をすっきりさせるためか、プレイヤー=プロデューサーという最高のポジションを廃止してしまったのは残念でならない(スタッフも恐らく相当悩んだ末の決断だったと思われる)。
今作はプレイヤー=女性アイドルという図式なのだが、自己主張が激しいしどのキャラも性格に癖があり、途中で出てくる選択肢に明確な正解が設定されていることもあって、感情移入しづらい。
この手の恋愛シミュレーションなどでは、相手の機嫌をとるという意味合いの選択肢が出てくるが、その絶妙なシチュエーションによって、多少理不尽な正解でも納得させてしまうものであった(こうして冷静に考察すると、なんとも製作者本意な便利システムだと思うが…)。

だがこのゲームの場合、ストーリーシーンの重要な局面で突然選択肢が入り、意図した通りのものを選べなければ失敗という扱いを受けてしまう。
この選択肢があからさまな作りだったりペナルティがないのなら、わざと間違ってみたり好きに選んで楽しむ事ができるのだが、引っ掛けたりミスリードを誘発させるものが多いし、正解の選択肢がイマイチ納得できないものになっているのも目立っている。
なにより、ここで真面目にやらないと、「思い出」が手に入らず、のちのオーディションで苦労するハメになるというのが、気軽に楽しめない原因になっている(全般難易度は低いのでやり直したりするほどでないが)。また、前述したようにプレイヤーの感情移入を妨げている。

本編でもあった、キャラクタに直接タッチするタッチコミュニケーションも入っているのだが、サービスのつもりでいれたのだろうパイタッチイベントは逆にあざとく感じたし、目線を動かすなどの操作もイマイチ馴染めなかった。どうにも無理して入れているようにしか感じなかった。

選べる主人公の人数が容量の都合もあって3人と非常に少ない。そのかわり、1人1人にきちっと違ったシナリオがあてがわれ、イベント時にはほぼフルボイスで喋る。音質も良い。それに人数の少なさの強みを活かして割と有名所の声優を起用しているところも注目すべき点だ。
ただ、制約も多く、メインキャラ3人+アイドルマスター本編で登場したアイドルたちのみ、かつ、メインシナリオのみでサブイベントでは一切声が出ない。それ以外の場合は、ドラゴンクエストのようにポポポ…という擬音で表現される。

各キャラのシナリオは一本道ではなく、オーディションの合否で分岐したりするため、膨大な量となるが、ここは出来れば、容量が厳しいのであればシェイプアップして一本化し、本筋のフルボイス化を実現して欲しかった。
普通初めてプレイする場合、オーディションで負けた分岐のシナリオは後味が悪くてあまり見たいと思わないだろう。余裕があるのなら、そういう作り込みもあってもいいかと思うが、DSというハードウェアを選んだなら、思い切って引き締めることも重要だと思う。

女の子を3人しか入れられなかったのに、マニアックなキャラ付けをおこなっており、開発者の正気を疑ったものだ。
内訳としては、正統派アイドル、天然で気の弱いひきこもり、いわゆる男の娘(しかも女装してアイドルデビューする)、というちょっと誰に売りたかったのかよくわからないラインナップだ。
シナリオライターもどちらかというとオタクっぽい趣向性がにじみでていて、ネットスラングの引用が多くマニアックである。

また、今作のキャラクターデザインは窪岡俊之ではなく違う人を使っているようだ。
容姿が3人とも地味だが、これはDSの性能の関係で制約が多かったためだろう。このシリーズのお決まりとして、キャラクタをポリゴン化してステージに立たせて歌って踊らせなければならない。
これをDSの性能で無理なく実現させるためには、目立つ格好にはできなかったと思われる。特に髪型に特徴的なデコレーションを施すのはご法度だったに違いない。ただ、ネーミングセンスまで地味にする必要はないと思ったが。

シナリオは3本あるが、ネット関係のネタ頼りの水谷絵理(ひきこもり)が主人公キャラの良さもあって面白かったぐらいで、男の娘は出オチ、日高愛(正統派アイドル)は設定が上手く活かせていないといった感じ(この子の母親のキャラが中々面白いのにその良さをじゅうぶん引き出せていなかった)。
物語性を主体にしたゲームにしては、今一つ押しが弱い水準と言わざるをえない。

また、後述するがこのゲームには最大の欠点があって。

ゲームシステムや演出周りが、「何もそこまでしなくていいのに…」というぐらい、本編を踏襲している(音楽・背景絵・構成等が同じ)。逆を言えば、ここまで踏襲しなければ「アイドルマスター」を名乗れなかったとも言える。

例えば、週のはじめに流行情報をチェックして、流行に合わせた衣装・歌合わせをしたり、1日ごとに何をやるか「レッスン」「営業」「オーディション」「休む」の中から選択させたりする。
このゲームは既に、育成SLGではなくテキストアドベンチャーである。そのため、これらの要素は全て「ごっこ遊び」でしかなく、そこにゲーム性は全くない。無駄な要素といってもいい。
アーケードではスコアの意味合いがあったアイドルランクやファン数の概念もあるが、ほとんど形式的なものにしかなっていない。ハイスコアを狙うといった遊び方もできない。

主にやることは「営業」の項目で表示されるメインシナリオを選択して話をすすめるだけだ。本編ではオーディションで使えるハッタリの思い出を獲得するイベントが見られたが、こっちでは物語を進めるためのコマンドでしかない。
なんか、アイドルの「営業活動」とはあんまり関係ないものも沢山混じっていて、無理矢理押し込めたような感じだ。

そして、章の最後には、「オーディション」に参加できるようになり、ここで合格しなければ先へ進めない(落ちても別の話に分岐する場合もある)。

このオーディションがクセモノで、本編と同様に、各種パラメータを「レッスン」で高めておかないと合格率が大きく下がる。
うまく思い出を沢山ゲットしていた場合、合格率が低くても強引に引き上げて先へ進めることも出来るが、結局は能力値を育てておかないとのちのち困ることになるので、オーディションの手前まで話を見たら、
今度はダラダラと「レッスン」を繰り返し、適正値までパラメーターを上昇させる作業をしなければならない。
「レッスン」は3種類あり、対応した能力が上がるようになっているが、タッチパネルを使った簡単なミニゲーム形式だ。これがまた、イマイチの作りで、とにかくつまらない。
どうやら2周目、3周目と、回数をこなすたびにパラメータが伸びやすくなる配慮があるようなのだが、それ以前にこの形骸化したシステムを刷新させることを考えて欲しい。全く不釣合いな要素ばかりで、とにかくストレスが溜まる。

相変わらず、画面の切り替わりの演出などが冗長で飛ばせなかったりするのも、直して欲しかったものだ。

せめてもっとオーディションが面白ければ盛り上がったように思う。
本編と比べ、かなり簡略化されているが、チュートリアルの解説画面を見る限り、もっと凝ったものにするつもりだったのではないだろうか。
完成されて出てきたのは、一人の審査員の興味ゲージが時間と共に減少し、それにともなって合格率が10%刻みで落ちていくので、興味を引かせるために思い出スロットを回すという実にシンプルでつまらないものになっている。
ところが、チュートリアルの解説画面では、Xbox360版などと同じように3人の審査員が表示されていた。

ただのテキストアドベンチャーならまだしも、それに「アイドルマスター」恒例の要素を強引にくっつけたことで、楽しみどころがわからないコンセプトがぐちゃぐちゃなゲームになってしまっている。
まとめると、プレイヤーはただ話を読み進めるだけでなく、合間に全く意味のない同じミニゲームを何度もこなしてステータスをあげながら、ストーリーを進めていくという、「アドベンチャー」としては非常に場違いでテンポの悪い内容になってしまっている。

これは想像でしかないが。
「アイドルマスター」は結構有名なゲームになった。だからDSでも出そうという話になり、大作級の開発費を捻出し、それなりのビッグプロジェクトとして製作された。
だからか、ニンテンドーDSという枠組みの中ではプログラムレベルや技術レベルがトップクラスを誇っている。ここまでまだ触れてないが、シリーズ恒例の3Dポリゴンのステージパートの完成度の高さはDSらしからぬハイレベルさである。
恐らく人海戦術で、レッスンパート、イベントパート、ステージパートなどが並行して作業が進められたのだろう。

こうして巨大なゲームが出来上がったものの、いざそれらを合体させようって時に、コンセプトを明確にしないまま作っちゃったので、せっかく出来たのを没にもしづらいしってことで、何とか組み合わせたのが、この整合性の無さに繋がっている感じがする。

さて、通常イベントパートは他のアドベンチャーゲームでは良くある、人物が2Dの立ち絵で表示される画面構成だが、このシリーズではお馴染みのステージパートも勿論あり、そこでは今回選べる3人のアイドルキャラがポリゴン化されて舞台に立ち、据え置き機に遜色ないレベルで歌って踊ってくれる。
ぶっちゃけ、このステージパートのクオリティが非常に高く、本編シナリオよりこっちで色々遊んでいる方が面白いという困った事態になってしまっている。

曲数は10曲で(うち3曲はシークレット扱い)、スペックの関係でデュエット出来ず、舞台に出せる人は1人だけという寂しさはあるものの、それを吹き飛ばすほどステージエディットの自由度が高い。
まず、カメラワークをかなり細かく設定できる。オートでもわりかしいい動きをするゲームだが、自分で設定したカメラワークで歌わせると、これまた格別に楽しい。この手の機能は難しいイメージがあるが、ちょっと触れば思ったとおりに演出できるのでやり易い方と言える。
他にも、振り付けを設定させることも出来る。これは元のダンスに割り込ませる形でモーションが入るので、相当うまくやらないと、手足がワープしたりして不自然になるが、うまく使えばかなりオリジナリティを出せる機能といえよう。

グラフィックのクオリティがかなり高い。テクスチャーはトゥーンシェードっぽくしてかなり綺麗にごまかしているし、顔の表情も多彩でモデリングにも違和感はない。
また、舞台も5つの中から選択できて、背景のグラフィックも同様にレベルが高い。勿論、コスチュームを着せ替えたりも出来る。

そんなわけで、1本のゲームソフトに色んな要素が豪華に入っているものの、それぞれがバラバラな作り込みで、せっかく力を入れて作っていて、クオリティの高さは無視できないほどなんだけど、1本のゲームソフトとしては、統一感がなくすっきりしたゲームでない。
一本筋の通ったものがないので、色々凄いんだけど、トータルで見ると、薄っぺらく見えてしまう。ここの意思が統一できていれば引き締まったゲームになった可能性はあった(プロジェクトのトップの人間がまとめきれなかったんだろう)。
実に残念なゲームだ。

ちなみに、DSのADVとしては、一部のキャラがフルボイスのためテンポが悪く、また、ドアを開ける音など効果音・簡単な演出の全てがテキストで描かれているため、ADVパートも見た目は豪華だが質はそれほど高くない。そこで結論。

大作レベルのクオリティを持ちながらコンセプト不在のゲーム。





[2011/05/15]
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