ラストストーリー


対応機種Wii
発売日2011/01/27
価格6800円
発売元任天堂

(c)2011 Nintendo / MISTWALKER
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「ファイナルファンタジー」で一世を風靡した坂口博信が送る完全新作の大作ロールプレイング。音楽に植松伸夫など、かつて一緒にファイナルファンタジーを作ってきた人間も多数参加しているようだ。
「ラストストーリー」という名称は、昔飛ばず鳴かずの状態だったスクウェアでこれで駄目なら諦めようという思いで名付けた「ファイナルファンタジー」一作目の時と同様の覚悟を持って開発に臨んだのだろう。

とうぜんこれだけ気合を入れて作っているのだから、自然と期待も高まるというものだ。
前情報で漠然と公開されていた内容やインタビュー記事を読む限りでは、もう数年前にとっくに使い尽くされたオープンフィールドを売りにしたRPGというだけで、これといったものは見られなかった。
実際やってみて、オープンフィールドで、ここが他とちょっと違うことをやっているんですよって言うぐらいの差別化では、酷評を下すつもりであった。それだけでは既存の焼き直しであって、根本的な目新しさにつながらないからだ。

現在、RPGの制作手法が良い意味でも悪い意味でもフォーマット化され、個人的にはもうただの数字遊びにはウンザリ来ていた。なんだか、この一言でRPGを全否定する発言だが、その数字遊びも面白ければ未だに楽しめるものだ。
一昔前は進化したグラフィックスや新しい技術法を駆使することでごまかしがきいていたが、近年はコンピューターの進歩も頭打ちになりつつあり、中身に関してもフォーマットの中では出来ることは大体やりきった感じである。

自称斬新なゲームシステムや、自称歯ごたえのあるゲームバランスといった売り文句で売り出されるRPGには、もう全く興味がわかなくなってきていた。
前者の新しいゲームシステムは、まず新しいことを覚えるのがしんどいし、覚えたからって面白くなるのかも怪しい。体感的に奇を衒ったゲームは、こんなことやらなきゃだめなのかと思わせるようなめんどくさいことばっかりで、単純にこれは面白いと感じたゲームはまず無い。
後者のゲームバランスが曲者で、製作者は良かれと思ってやっていることでも、やっぱりこれもただ手間をかけさせる面倒くささばっかりで、両方が組み合わさったRPGに出会った日には、続けるのが億劫になってしまうほどである。

RPGについてキツイことばかり書いてしまったが、勿論その中にも光るゲームは存在する。面白いかどうかはやってみなくちゃわからないってのがゲームの難しいところである。
ただ、少なくとも最近のRPG(といってももうFF7だかのころからその徴候が現れていたから最近でも無い気がするが)には、やる前からネガティブな偏見を持って見ているのは事実だ。
ROMカートリッジ主体だった限られた容量のころはこんなことはなかったのだが、まずクリアするだけでも30時間だの40時間だの時間を取られる。そのくせプレイ中はスピード感がなく眠くなるだるいゲームばかりで、
先ほども書いたが、製作者は良かれと思って作ってくれた広大かつ複雑すぎて全部回る気が起きない大迷路や、かったるいだけの画期的だけどどこかで見た事あるようなトラップに楽しむどころか疲れ果ててしまう。
正直な話、退屈になってきてBGMやラジオをかけながらやったり、テレビを見ながらだらだらながらプレイをする。これはゲームとしてどうなのか?とここ数年感じていたことだ。
辛かろうがなんかプレイヤーが続けたくなる餌や褒美でも適当に与えてれば楽しく続けられるものだが、たとえば敵を撃破したときに気持ちいい効果音を鳴らして爽快感を出してみたり、定期的にレアアイテムでも与えて、飽きさせない工夫も見られない。

遊んでいる人間が求めているものは、何よりも理屈なく面白いもの。敢えて体現するならエキサイティングでスリルのある体験である。
晩年でかいデータを扱えるようになって増えてきた、膨大なリストを埋める作業や、EXPを最高値まで稼いだ最強データーを作ることや、手に入れるために何百回も同じ敵をぶん殴ってまでして価値のあるものなのかわからないレアアイテム収集などではない。
そういったゲームは昔からあったけれども、それらは飽くまで主従関係では従であり、主ではない。なんか勘違いしたゲームが増えてきている。

こういう慣習を楽しいと感じている人もいるのだろうから、そういう人達を否定はしない。まぁいつかは飽きると思うが。だからこそいつも厳しく書いているのである。

前置きがかなり長くなってしまったが、ラストストーリーはそんな凝り固まった価値観をぶっ壊してくれた見事なロールプレイングだ。
正直言って、ゲーム自体にはそんなに目新しさはない。要するにアクション要素の強いRPGで、ルリ島というでかい城下町を拠点に、シナリオに沿ってロケーションを攻略していく。
まぁ、既に有名なゲームで似たものがあるので例えるなら「龍が如く」の中世ファンタジーバージョンを想像してもらえば良い。

ルリ島(龍が如くで言えば神室町)は馬鹿でかく、沢山の通行人が行き交い、橋の下から小さな路地裏までかなり細かく作り込まれている。町を歩いていたら突然サブイベントが発生して、それをやるかやらないかは自分で決めることができる。
とにかく情報量が莫大で、作り手の情熱や執念を感じた。通行人にぶつかればちゃんと吹っ飛んで「なんだこの野郎!!」と罵声を浴びる。道端で会話をしている人に近づけばその声が聞こえてくる。こういう小さいことでもこだわって作ることでゲーム画面と一体感を感じることが出来る。
まあ多少挙動に不自然な点はあるが、この辺はWiiよりももっと高性能なマシンで作れば複雑な処理が出来たのだろうが、これでも十分だろう。あまり比較したくはないが、PS3「龍が如くシリーズ」では、割り切った作りでできるのにやらなかった。
だからこのへんは作り手のやり方次第なのだろう。ただ金かければ良いってモンでもない。

グラフィックは、まぁWiiで作っている以上は、色あせて見えてしまうのは仕方がない。しかし、綺麗に見せる努力は怠っていないし、総合的に見れば決して見劣りすることはないだろう。

戦闘システムについてだが、いわゆるエンカウントの概念はない。状況に応じて敵が潜むダンジョンに場面転換し、そこでは常に戦闘状態となる。アクションゲームのステージを攻略していくような感じだ。
アクション要素が非常に強く、RPGというより三人称視点の3Dアクションゲームに近い。壁に張り付くといったカバーアクションがあったり、ボウガンで遠くの敵を撃ち落としたりする。
RPGとして売っているのに、蓋を開けたらアクションゲームだったという事実に賛否両論出るかもしれないが、最近は「Fallout」や「オブリビオン」といった海外ゲームがRPGとして売り出されているので、RPGの定義は広がりを見せていると考えてもいいだろう。
ただ、広告媒体などではもっとアクション性の強さを強調したほうが良かったかもしれない。

色々システムが雑多だが、ゲーム構成で徐々に慣れさせるように作っているのでストレスはない(敵を引きつけて特定の魔法を駆使しないと絶対に進めないボスを置くなど)。
育成要素も実にシンプルで、レベルが上がりやすく、装備品をお金を払ったり素材を使って強化したりするが、あまりパラメーターにこだわらなくても、やり方次第で切り抜けられるように出来ているので、好きに遊べていい。

一応RPGとして出しているので、シビアな反射神経を求められる厳しさもそんなにない。カウンター攻撃(ジャストガードと言われる敵の攻撃に合わせてガードボタンを押すと反撃できるアクション)もタイミングがかなり甘く、これは絶対無理!!と言わせるところはほとんどない。
カバーアクション状態で出せる不意打ち攻撃も簡単に出せる上にダメージボーナスもでかい。アクション要素が原因で辛いと感じさせる局面は無いと考えていいのではないだろうか。

しかし、最後のボスだけが異様な強さを誇っているのだけが残念でならなかった。それまでは気持ち良く遊べていただけに、評価を二段階は落とした。
最後のボスぐらいは強くないと締まらないじゃないかと思う人もいるだろう。海外ゲームでは別に最後に待ち受ける障害が屈強なボスとは限らない。これは日本人的センスというか悪い癖だと思っている。
なにも強いだけでこれだけ批判しているのではなく、じゃあきついから装備品を見なおそうとか経験値稼いだほうがいいかと思っても、最後のセーブポイントでセーブしてしまうと後戻りができなくなり、ショップが無く一箇所だけ敵と戦闘できるポイントだけがあって、他には何も無いのである。
この配慮の無さは、ガッカリせざるを得ない。

戦闘は、最大7人(実質6人)パーティで主人公以外はコンピュータが動かす。敵も沢山出てくるが、派手なエフェクト効果をガンガンかけてもコマ落ちや処理落ちすることがほとんどない。ただ、いつも同じメンツだと同じような戦い方になってしまうということで、パーティーメンバーの入れ替わりが多い。
ストーリーに応じてキャラクタの入れ替わりが激しいので、仲間の分の装備品を強化すると無駄になってしまうのでは?と感じさせてしまうのが惜しいと言える。

一風変わったシステムで馴染みづらく、仲間が覚える魔法も種類が少なく、出来ることが少ないが、地形を活用したバトルシステムは戦略性が既存のRPGに比べると格段に自由度が高く面白い。
堅くてなかなかダメージを与えられない敵でも、狭い足場から突き落として即死させることが出来たり、隠れながら背後にまわり奇襲をかけて一瞬で倒してしまうなど、決まりきったロープレの戦略性とは変わった作りになっていて、楽しい(このへんがACTゲーム的に映るのだろう)。
少々やらされてる感は否めない物の、勢いで許せてしまう空気が憎めないヤツといった感じで良い。

攻撃するときは、敵に近づいて敵の方向にスティックを倒すだけ。これをボタンを押して剣を振るという操作だったら、その煩わしさにやはり評価を落としていただろう。攻撃するためにはゲージを溜まるまで待つというようなものはなく、スティックを倒している間はガンガン剣を振って攻撃する(一応素早さのステータスがありその数値に習っているようだ)。

戦闘シーンにおいても、製作者のこだわりが垣間見える。例えば扉の前でプレイヤーが扉を開くまで壁際に隠れてちゃんと警戒していたり、足場の端っこで落ちそうになったら、バランスを取るポーズをしてみたり、絵的に不自然なときもあるのだが、従来のRPGのように棒立ちでただ後ろを付いてくるだけのゲームに比べれば、雰囲気が出ていて良い。
また、イベントシーン以外でも、移動中や戦闘中にも仲間が良く喋る。「テイルズ」シリーズのスキットチャットみたいなモンだが、足を止めて思わず聞き入ってしまうぐらいだ。「ファイナルファンタジー13」でも仲間がフィールド上でしゃべっていたが、存在感をアピールしている程度であまり面白いことを喋らなかった。
このゲームは、こういうライブ感を重視していて、そしてこだわりを持って作っているから、その熱意がしっかりプレイヤーに伝わってきて楽しめる。大げさかもしれないが、オフラインのゲームなのにネットゲームを遊んでいるような賑やかさがある。ただ声優に声を当てて喋らせてるだけでなく、見せ方をこだわった差ではないかと思う。

ストーリーは、まあ作り手がもういいオッサンということもあって、一昔前のセンスでベタさを感じるところもあるが、ツボをしっかり押さえていて面白い。なにより、題材がゲーム性とマッチしていていい。「ロストオデッセイ」や「アウェイ シャッフルダンジョン」ではオチを見た段階でずっこけてしまうもので心配だったのだが、今回はプレイヤーの期待を裏切らない完成度だ。
(嫌味を感じない程度の)下ネタが多いのが、なんだかまだ若いなあと感じてしまった。声優も豪華で演技力が高い人を使っている。こういった演者達にもだいぶ支えられているだろう。
映画好きでゲームとしてはちょっと違和感を感じてしまうほど仰々しいスペクタクルシーンをプリレンダムービーを使って見せたりしていたが、今回はWiiであることとムービーは基本的にリアルタイム処理という制約があることで、ゲームの中での見せ物としてはとても良い位置に着地してると感じた。
見ている人の心を打つ演出は、何も見てくれの豪華さばかりではないということに気づいたのではないかと思う。
ムービーべったりでなく、所々操作できるシーンを挟んだり、主観視点で示されたところを見る(カメラを動かす)操作を入れて、没入感をなくさない工夫をしているところも好感が持てた。

まぁ、完全新規でノウハウも無いゼロからの制作ということもあって、作り込みが甘い面も多く見られたが、仕方のないことだろう。
例えば、ただの町の住民にまで台詞に声を付けているものもあれば、容量や制作上の都合からか、肝心なシーンで声なしテキストだけだったり、テキストだけの台詞も自動でメッセージ送りされてしまうなど。
メニューインターフェイスはシンプルで悪くないが、戦闘シーンではまだ画面がごちゃついていて状況を把握しにくかったり、主に壁際のカメラ処理が悪く、酔いやすい人が酔ってしまうかもしれない動きをする。
発生したサブイベントを「龍が如く」シリーズのように、メニュー画面でリストアップすると便利だと感じた点など。

なにより本作をプレイして、ちゃんと坂口氏は最近のゲームをしっかり研究してそれを自分のゲーム制作にフィードバックさせているということを強く感じた(ツイッターで近況を逐一書いている)。
正直Xbox360でRPG作っていた頃は、名前も知れてるし悠々自適に暮らせる金も稼いだから趣味で軽くゲームを作ってる印象しか持てなかったが、今回で見方がガラッと変わった。
ゲームが面白いかつまらないかは別として、少なくとも長年口酸っぱく言い続けていた映画的なゲームの面白さは今回やれたのではないかと感じる。

良くも悪くも型破りなゲーム(というかパッケージにRPGと書くのがまずいと思うんだが)だが、久々に製作者の熱意が伝わってくる熱いゲームであった。
業界全体が人気シリーズの看板にあぐらを書いて金稼ぎ第一主義になりつつあるなか、こういうゲームは貴重である。良くも悪くも話題になって売れてもらいたいものだ。そこで結論。

和製RPGに飽きていた人はぜひ遊ぶべし。飽きてない人はやらないほうがいいだろう。





[2011/02/02]
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