ファイナルファンタジー9


対応機種プレイステーション
発売日2000/07/07
価格7800円
発売元スクウェア

(c)2000 SQUARE
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超大作RPG「ファイナルファンタジー9」は原点回帰をテーマに製作された。
中世ファンタジーの世界観を軸に据え、天野喜孝のイラストを元にデザインされたキャラクタ、タイトルロゴにはかつてシリーズの象徴だったクリスタルが描かれ、かなり王道RPG路線を意識している。

この会社のRPG、特にFFシリーズは、他がやったことがない、斬新で目新しいシステムを重視していて、基本をおざなりにしたゲームが多かった。というかほとんどそういうゲームばかりだった。
そこが売りであり魅力でもあったのだが、ここ最近は気を衒ったゲームを狙って作りすぎたせいで、とっつきが悪かったり、クセが強かったりした。
オーソドックスな路線を捨てているため、安心して遊べるかどうかという一点においては、かなり弱かったと言わざるを得ない。
そんなわけで、この会社のゲームを発売日買いするのには、ゲーム内容が読めない分、博打的でかなり勇気の必要な買い物であったのは否定出来ない。

しかし、この作品は、前作のFF8ではっちゃけ過ぎたのを反省したのか、間口が広くて誰にでも楽しめる親切丁寧な配慮が施された非常に手堅い作りになっている。

システムは、シンプルかつわかりやすいものになっている。
中でも特徴的なのは、装備品にアビリティがついているところが面白い。
アビリティを習得するには、アビリティのついた装備品を戦闘で使い続けアビリティポイントを貯める必要がある。
通常、装備品は、パラメータの増減だけで価値が決まってしまう。弱い武器でも持ってないアビリティがついていたら、今使ってる強い武器を外して(アビリティを覚えるために)弱い武器で戦うかどうかという葛藤が生まれる。
このように、単純に武具の性能だけで終わるのではなく、アビリティがあるかないかでも価値が決まってくるというのは、実にシンプルながら戦略性が盛り込まれており面白い要素だと感じた。

というかぶっちゃけ断言する!
このゲームは、装備品とアビリティを集めて楽しむゲームだ!
1人1人のキャラクタのアビリティの数が絶妙で、全部集めてやろうという気持ちにさせてくれる。
ひとつ引っかかったのは、クイナの青魔法だけが極端に覚えづらかったことだ。敵HPを極限まで減らした状態で「食べる」コマンドを成功させないと習得できない。
原点回帰をうたうのなら、青魔法を食らっただけ、あるいは見ただけで覚えられるぐらいで丁度良かったと思う(本作は「あやつる」がないのでやむを得ない措置とも言えるだろうが)。

ストーリー、シナリオについて。
FF7や8では、話者の近くに台詞のウィンドウが表示されていた。
今作ではいよいよ、話者に対して台詞ウィンドウにしっぽがつけられ、以前よりも漫画の吹き出しの色合いが強まっている。
しかし、このようなインターフェイスになったことで、話者を明示してくれる時としてくれない時があって、統一感がなくなっていることが気になる。
キャラクタが画面から離れている場合、しっぽだけを付けられても誰がしゃべっているのかわからなくなることがあるので、やはり話者を示すことは必要だろう。

テキスト周りでは他にもいくつか気になることがあった。
せっかくキャラクタや世界観が全体的にデフォルメ化されて漫画的になっているのに、「生命」とか「掛かっている」みたいに、余計なところまで漢字で表記しているのが気になった。
また、イベント演出の手が込んでいて、勝手に台詞送りされてしまうところが多く、どの場面で台詞送りが出来るのかが非常にわかりづらい。
出来れば、台詞送りが出来る場面では、メッセージの末尾に、逆三角マークをつけて知らせて欲しかった。
おかげで、間の悪いタイミングで台詞が追加され、飛ばすつもりがなかったのに飛ばしてしまい、一瞬で画面から消えてしまって読むことが出来なかったというような事故が多く発生した。

シナリオは無難に出来上がっている感じだが、シリーズ初期のテイストやネタを意識しすぎていて、やりたいことがはっきりせず全体的に散漫になってしまっている印象だ。
描かれているテーマは終始一貫していて、読み物としては悪くはないのだが、RPGとしては、ゲームとしては、少々文章に頼りすぎている感がある。
前述したように、余計な単語まで漢字にしてしまっていることも相まって、書かれている文章や町の名前などがどうにも頭に入ってこない。
映像美術での力押しのハッタリで通してきたシリーズなだけに、ゲームテキスト単体で見れば、貧弱な水準と言わざるを得ない。

グラフィックは、相変わらずかなり綺麗。
暖色系の色を多く使っていて、温かみのある雰囲気を醸し出しているのが新鮮で良い。
マップは、今回もプリレンダCGの一枚絵で、さすがに3本目にもなると、だいぶ作り慣れてきたのではあるが、マップの構造や決まりごと、どこまでが歩けてどこからが歩けないのか、そして奥行き、
マップの出入り口といった繋がりが、やはり今作でも分かり難い所が目立っている。それでも以前と比べるとかなり改善されてきてはいる。等身を下げたことで、マップを作りやすくなったというのも大きいだろう。
強いて言えば、明確に良くなった点といえば、調べられる部分に来るとキャラの頭上に吹き出しのアイコンを表示して知らせてくれる機能はわかりやすくなって便利だ。

キャラクターは天野喜孝の絵を元にモデリングされているのだが、やはり3Dポリゴンで表現するとなると、ファミコン時代の2Dドット絵のようにうまくデフォルメするのが難しい。
スタイナーなんか、原画では凄くカッコイイのに、ゲーム上では分厚い甲冑を着込んで駄々をこねてるおっさんにしか見えない。
他にもサラマンダーとか、SDキャラに落としこむ際、そのキャラの特徴的な部分が強調されて作られるので、なんだか不恰好な、無骨なデザインになってしまうのである。
あの、原画のような繊細な雰囲気を出すことが極めて困難だ。
だからFF7で一度、天野喜孝をイラストレーションから外し、社内のデザイナー、野村哲也にメインのキャラクタデザインをやらせたのだろう。

FF7から3年経ってCGのクオリティが上がってきたものの、やはり天野喜孝のイラストの雰囲気をうまく再現することが出来なかった。実にもどかしい事態である。

バトルシーンは、4人パーティ制が復活しているものの、代わりに戦闘開始前のロードがかなり長くなってテンポが悪くなってしまっている。
それにバトル周りにも、気になる点がかなり多く見られる。

まず、相変わらず攻撃時のエフェクト演出が冗長である。
おまけに、今回はATB周りのシステム設計に不備があり、同じシリーズの、いや、同じ会社から作られているものとは思えない「ATBモドキ」なシステムになってしまっている。

最速設定にしてもATBゲージが溜まる速度が遅いせいなのか、攻撃エフェクト展開中も時間が流れATBゲージが溜まっていく仕様になっている。
それ自体に問題はないのだが、徐々にHPが回復するリジェネという魔法があり、さらにアビリティで「いつでもリジェネ」というものがある。
このリジェネの効果がただでさえ強力なくせに、長い攻撃演出の間も時間が流れるため、待っている間にもかなりの量HPが回復してしまう。
この仕様を逆手にとって、味方側でもわざと攻撃演出の長いコマンドを選び、戦闘を長引かせてHPをリジェネ効果だけで全回復させるというような、チトナンセンスな戦い方ができてしまう。
それだけではない、コマンド入力だけ先行してできてしまうので、入力してから行動するまでの間が凄くて、いざ行動する順番になったときには、攻撃ではなく回復したかったというような困った状態に陥ることが非常に目立っていた。

このように、ATBゲージを発明した本家本元のシリーズのゲームとは思えない、抜けたところの多いバトルシステムである。

また、戦闘が全体的に単調になりがちで退屈なのも気になるところだ。
クリーチャーのモデリングやテクスチャの画質を上げたため、一度に出現する敵モンスターの数が多くて3体、ほとんど1体2体である。おまけに出現バリエーションも乏しい。
これで、戦闘のテンポが良くてサクサク敵を蹴散らせられるものになっていたら、爽快感もあって悪くないのだが、冗長な演出シーンとロードの長さによって、とにかくダルい。困ったものだ。

ウイルス、迷惑など、いまいち一般的でない効果をもたらす状態異常が多すぎるのも気になる。状態異常を回復させるエスナや万能薬で回復できないものが多いのもなんだかなあという感じだ。

他にも、原点回帰をテーマにしているためか、これまでのFFではあまりなかった、過去作のイベントネタなどが数多く使われている。
しかし、システム的には、FF6のトランスとか、FF8のカードゲームとか、今作でも再現されているのは嬉しいのだが、とりあえず詰め込んだだけという感じで必然性に乏しいことが気になった。

トランスは、戦闘中に敵の攻撃を受けるとトランスゲージがたまっていき、ゲージがいっぱいになるとトランス状態になってパワーアップする。
しかし、このトランスゲージがたまりにくいし狙って変身することも難しく、キャラクタによってはトランスしてもあまり強くならなかったりして、システム的に効果的に作用していない。

今作でもカードゲームが入っていて、□ボタンで町の住人と対戦できるが、FF8のようにゲーム本編と直結した要素はなく、ミニゲーム単体で完結しているので、本当にただのミニゲームになってしまっている。
FF8がなかったらその作りこみを褒めていたかも知れないだけに、残念な要素だ。

プレイステーションにプラットフォームを移してから3本目の本作。
CGを使ったゲーム制作の手法が確立して、そのノウハウを活かして作られたのがこのFF9となる。
イベント演出は、昔のRPGのように演劇的で、音楽も変に洒落て映画を意識したようなものはやめて、ゲーム音楽っぽくなっている。
確かに、原点回帰を謳うだけのことはある。

昔のFFっぽく作っているのではあるが、飽くまで“それっぽく”作ってあるだけで、原点回帰って言うほど昔のFFになっているのかというとそれはまた別問題だろう。
FFシリーズおなじみの単語が使われているものの、やはりどこか別物のゲームといった感触は拭えない。
だが、いつもは軽視していたRPGの基礎的な要素を大切にした作り込みだけは評価できる。そこで結論。

良くも悪くもFFっぽいゲーム。





[2012/04/08]
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