魔法先生ネギま!


掲載雑誌週間少年マガジン
巻数全38巻
作者赤松健
発売元講談社


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「A・Iが止まらない!」「ラブひな」といったハーレム漫画でお馴染みの赤松健の集大成ともいえる作品がこの「魔法先生ネギま!」である。
ありきたりな単なるハーレムものではなく、主人公は僅か10歳の少年「ネギ・スプリングフィールド」が女子中学校の担任教師となり、1クラス分(31人)の女子全員がレギュラーキャラクターとして最初から登場する。
これに加え、「ハリーポッター」のような魔法ファンタジー+バトル要素をミックスさせた意欲作となっている。

開始初期から、かなり手間と労力がかかっていることがうかがい知れる内容となっている。

まず、31人にも及ぶメイン女性キャラクターは、徐々に増えていくのではなく、初期段階で全員分のキャラ設定が作られている。
ただし、31人全員を公平に扱うことは不可能なので、レギュラー級、準レギュラー級、ゲスト級、或いは殆ど全く登場しないという、メインキャラクターといっても天と地といえるほど扱いに差がある。
こういったキャラクタの扱いには、連載初期に頻繁に行われていた読者人気投票を元に決めていたとのことだ。

31人ものキャラクタを、おまけにクラスメイトという同じ身分という制限が付いた上で、個性分けしながら作り出すというのは相当大変だったようで、口調で違いを出すため方言を使うキャラが多かったり、数合わせのような無茶苦茶(に見える)なキャラクタも一部に見られる。

ハーレム漫画において、女性キャラの人数が多いことのメリットは、あらゆる性格(属性)のキャラクタを網羅しているので、それだけ多くの読者の琴線に触れるお気に入りキャラが引っかかりやすい。
デメリットも非常に多く、人数が多い分、扱いが難しい。キャラの描き分けが大変で、人数が多いためその分個性や魅力を引きだすのが困難となることが挙げられる。
このへんの問題については、さっきも書いたが初期の読者人気投票で、おおかた人数を絞り込んだと見える。

世界設定や魔法といった作品上の設定も、事細かく作られており、単行本では解説コーナーまで設けられている。毎回数ページに渡って、解説文が書かれている。こういった緻密な作り込みが、漫画自体に厚みを与えていると言えないだろうか。

他に特筆すべき点といえば、背景や一部小物において3DCG制作ソフト「LightWave 3D」を使って描かれているという点だ。これによって、映画のようなスケールの大きさと迫力のある構図を実現している。
設定の細やかさや登場人物の多さなどを総合すると、1コマ当たりの情報量がとにかく凄まじい。この密度でよく週刊連載でやれたものだと素直に感心してしまう。

さて、この漫画の特色をざっと説明したが、漫画自体の面白さはどうかというと、長期連載や派手なメディアミックスが行われるほどの人気を獲得したものの、正直かなり微妙で危ういシロモノに感じた。

最大の欠点は、明確な方向性がないことだ。
作者としては、得意のハーレム路線に、異世界魔法ファンタジーバトル漫画のジャンルを取り込んで、何でもありの“ごった煮風”な漫画にしたかったのだと思う。
しかし、そのやり方が逆にどこを目指しているのかわからない作品に見えてしまい、なんだか素直に面白いと言えない内容になってしまっている。

初期は単なる大所帯なだけのお色気漫画だったが、長期連載の目処が立ち始めると、ファンタジーバトル要素の色合いが強くなっていき、本来予定していた作風が顔を出し始める。

物語の真相に迫る「文化祭編」と「魔法世界編」が、核となるストーリーとなっている。

だがとにかく全般的に言えるのは、お色気も少年バトル漫画もどっちもやりたがるせいで、テンポが非常に悪く冗長でだるい。
おまけに、レギュラーキャラが多いせいで、たいてい並列的に複数の話が進むことが多く、「いっぽう別部隊では」という場面転換が多用されているため、余計に話の進みが遅い。
なまじ登場人物が多いために、余談的なエピソードも挟まざるをえないために、読み飛ばしたくなるような部分も多く見られた。

これに加えて、突拍子もなく挿入されるお色気シーン。真面目なバトル・ファンタジー路線がメインの時に、サービスカットを入れられてもはっきりいってしらけてしまう。

結局、なんでも詰め込もうとした結果、器用貧乏な作品になってしまい、それを膨大な女性キャラクターと、緻密な設定(伏線)を小出しにしながらなんとかその弱点をカバーしているという風にしか見えなかった。

今回、作者の赤松健は、これまで長くても「ラブひな」の14巻が最高で、「ネギま!」においては全38巻という、初めての長編となった。
他にも、魔法ファンタジー・バトルといった新ジャンルに挑戦しているが、全体的に今一歩な感が拭えなかった。

壮大なストーリーを書くことに慣れてなかったのか、雑な展開をするところが多々あり、特に終盤の強引なまとめ方に関しては疑問符を残さざるを得なかった。
「魔法世界編」で終わるつもりだったのか、その後も実はきちんと描くつもりだったのが打ち切ることになったのか、どうにもすっきりしない。

また、バトルシーンについても、大技の撃ち合いばかりで、駆け引きの面白さが全くない。
おそらく最初は、前衛(戦士)と後衛(魔法使い)の概念を使って、凝ったバトルをやろうとしたのだろうが、突き詰めると単なる2vs2の戦闘になってしまって、その方向でバトルシーンを作ることを諦めたように見えた。
それでも中盤(「文化祭編」)ぐらいまでは、単なる大技合戦ではなく、格闘技の専門性にならったやり取りがあったり、魔法の独自設定を生かした駆け引きも見られたのだが、「魔法世界編」以降は完全になくなってしまった。

一方で、得意のお色気路線も、告白シーンのズッコケオチ、わざとらしすぎるスケベイベントなど、古典的なやりとりがさすがに古臭すぎて、正直楽しいといえるものではなかった。

企画設定、衣装などには先見性があったように感じるが、作品自体は色々手広くやりすぎて、どうにも失敗している印象だ。そこで結論。

色んなジャンルを食い散らかした、没個性の集合体。





[2013/05/18]
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