ファイアーエムブレム トラキア776


対応機種スーパーファミコン(ニンテンドウパワー)
発売日1999/09/01
価格2500円
発売元任天堂

(c)1996 1999 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS
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「聖戦の系譜」に登場したリーフ王子が主人公となり、前作では語られなかった彼の活躍を描いた作品。
ニンテンドウパワーの販売促進が目的とはいえ、曲がりなりにも人気シリーズの最新作を今更スーパーファミコンで発売するというのは、中々に割り切った行為と言えないだろうか。

ゲームシステムは「紋章の謎」のシナリオクリア形式に戻っている。「聖戦の系譜」のシステムは失敗だったと思ったのだろう。
プログラム周りは「聖戦の系譜」を流用しており、多少チューンナップが施されているが、ほぼ同じ。グラフィックやドット絵、攻撃エフェクトもほとんど使いまわしている。
書き換え作品ということで、小規模なプロジェクトとして作られたのだろう。エンディングのスタッフロールを見ると、少人数で作られていることがわかる。

じゃあ、ゲームとしては見るところのないものかというと、結構挑戦的で見どころの多いものになっている。

高難易度をウリにしているということもあり、かなり癖の強いシステムが多数採用されている。

敵を倒すだけではなく、「捕える」コマンドが追加された。「捕える」ときは普通に攻撃するより威力(攻撃力、命中率、回避率)は下がってしまう。
うまく「捕える」でHPを0に出来たら、敵の持つ所持品を剥ぎ取ることができる。
これまでのシリーズでは、よっぽど偏屈なやり方をしない限りは、普通にプレイしていればお金や道具に困るバランスではなかったが、本作では「捕える」を活用して敵の装備品を奪わなければ困る作りになっている。

もう一つ、「かつぐ」というコマンドが追加された。
これは、味方ユニットを文字通り担いで運ぶことができる機能である。
機動力の高い騎乗ユニットに歩兵ユニットを乗せて、一気に攻め上がったり、飛行ユニットに乗せて障害物を飛び越えたりできる。
他にも、敵の攻撃範囲に取り残されたユニットを拾って、安全な場所へ避難させることもできる。

ただし、「体格」というパラメーターがあり、これを上回るユニットは「かつぐ」事ができない(騎乗系ユニットの場合は体格が上のユニットも担ぐことができる)。
また、誰かを担いだ状態のユニットは、その時だけ能力値が半分になる。

他にも、「疲労」パラメーターが追加され、ステージに出したユニットが戦闘や杖を振るといった行動を行うたびにこの疲労度が蓄積され、自分の最大HPを超えてしまうと、「疲労」状態となり次のステージに参加させることが出来なくなる。
一度休ませると次のステージでは疲労度が0となり、再び使えるようになる。疲労状態を回復させるアイテムはあるが、中々手に入りにくいものになっている。
つまり、使えるキャラだけ、好きなキャラだけでゲームをクリアしていくことを封じているのだ。

最後になるが、ステージマップのバリエーションが多彩になり、一筋縄でいかない仕掛けが施されている。
これまでは、詰め将棋的で、敵将のいる場所までじっくり進めていって、ボスを倒してクリアという流れが基本だった。
ところが本作では、スタート地点から特定の場所まで逃げる(脱出する)、味方ユニットの周りしか見えない「索敵マップ」、定められたターン拠点を防衛する、味方ユニットが分散して配置されている等、多種多様なマップ構成になっている。
ステージによって求められる攻略法が大きく異なっているのが特徴的だ。

ざっとかいつまんで、ゲームの概要を説明したが、挑戦的なシステムを採用しているがゆえに、問題点も多く見受けられた。

敵を生け捕りにして、武器や道具を調達していくシステムはリアルで面白いのだが、「捕える」コマンドの重要度がわかりにくい。
一体どのぐらいの頻度で捕獲すればゲームクリアに不自由しないのかといった部分がはっきりしないために、初プレイではとてもじゃないが計画を立てながらプレイすることが出来ない。
従来作では、普通にやっていればクリアに必要な物資は手に入るようにできていたが、本作ではこのへんがプレイヤーの手に委ねられているため、厳しい。
初プレイにおいてはその葛藤も含めて楽しんで欲しいという意図を含んでいると思われるが、敵から奪う以外ではほぼ殆どアイテムはてにはいらないため、バランスの付け方としてはかなりマニアックな位置にある。

また、敵を捕えて装備を奪うプロセスも煩雑でテンポが悪いことも指摘しなければならない。
「捕える」自体がリスクを伴う作りで、敵を捕えたあと、そのユニットは敵をかついだ状態になり、能力値が半減してしまう。敵から道具を取るにはさらにもう1手必要で、最後に「解放」で敵ユニットを消滅できる(捕らえてから道具を剥ぎとって解放までの行動は2手あれば可能)。
道具も、預かり所はあるが、いつでも自由に出し入れできるわけではない。ゲーム中は預かり所があるマップなら預かり所で行い、基本的には進撃準備の時に整理する。
つまり、手元に持っておける道具枠だけでやりくりしなければならないため、考えなしに生け捕りしまくれるわけでもない。
敵を捕えるにも条件があり、敵の体格を上回っていなければ「捕える」ことは出来ない。

「疲労」システムにも問題点はある。
成長率の良い、強いキャラばかり使ってほしくないという意味合いで導入したのだと思われる。
発想は悪くないのだが、これもファイアーエムブレムでは先の展開のことをほぼ全く教えてくれないので、初プレイにはつらいものになってしまっている。

一番きつかったのは、仲間にするために必要なキャラが、疲労状態になっていて渋々諦めざるを得なかったという苦い状況に陥ってしまうことである。
ある程度先の展開がわかっている2周目以降は、疲労度管理も楽しめるようになってくるのだろうが、少なくとも初プレイにおいては理不尽とまではいかないが、きつい足かせ要素に感じた。

ここまでは新システムの厳しさを書いてきたが、肝心のステージバランスについても、「難しいゲーム」を自称しているだけあって、結構厳しい。

難しいからバランスが悪いという意味合いではないが、これはちょっといかがなものか?と感じた点を指摘する。

状態異常攻撃がかなり強い。
一度かかってしまうと、特定のアイテムを使ってなおさない限り、かかりっぱなしになる。
種類としては、眠り、毒、混乱、沈黙で、毒は毒消しで直せるが、他は「レスト」という杖を使わなければなおせない。この杖自体が結構レアで意識してやってないと手に入らない。
対策法としては、主に魔法使いが使ってくる場合、使用者の魔力を上回っていれば受けることはないが、下回っているとほぼ100%かかってしまう。

中盤以降に見られるが、長距離射程の攻撃ユニットに頼り過ぎである。
特に後半の屋外マップは、そのほとんどがアーチ(広範囲に射撃可能な弓兵)でうめつくされており、攻撃力も高めに設定されている。
飛行ユニットを潰す意味合いも兼ねているのか、アーチユニットのその全てが、飛行系に特効(ダメージボーナス)がつけられている。おそらく「かつぐ」コマンドでバランスが崩れてしまうことを懸念しての配置だと思われる。
せっかく大きいマップでも、過剰とも言えるほどのアーチの配置の多さに、ゲンナリしてしまう。距離を測るのも面倒で疲れる。

ある種コンピューターゲームの宿命かもしれないが、どうしても運頼みになってしまう部分が存在する。
敵の攻撃の命中率が30%以下だから、「あたらないだろう」という期待を持って動かさざるをえない局面がどうしても出てくる。
しかし運が悪いと当たってしまう場合もあるし、不運が重なって死んでしまうこともある。100%死なない配置にしながら攻略することはこのゲームにおいてはほぼ不可能といえる。
最終的に確率の運任せになってしまうタイトなゲームシステムは好き嫌いがわかれると思う。そしてこの緊張感が、理不尽さと隣合わせでありながらたまらなく楽しいのも確かである。

さて話は変わるが、ファイアーエムブレムシリーズは、初プレイからこだわったプレイをする人が多いシリーズである。
味方ユニットが人間であるせいか、仲間にできるキャラはできるだけ仲間にして、死者を出さずに完璧なプレイをつい心がけてしまう。
「手強いシミュレーション」と言われているが、いつしか自ら手強くしていっている一面もある不思議なシリーズだ。

しかしこの「トラキア776」では、最初のプレイで全てのキャラを仲間にしたり、全部のイベントを見るといった完璧なプレイはまず出来ないように作られている。
敵の思考ルーチンや、イベント発生の条件などが複雑化し、加えてキツイ敵の配置も組み合わさり、一度目のプレイで全容を把握することはまず不可能だ。

「紋章の謎」の時のように、丹念にヒントを与えられ、頑張れば見えている宝はすべて取れて、1回やるだけで極められるゲームの作りの方が、プレイヤーの欲求も満たされるし遊んでいて気持ちが良い。
だが、製作者の意図するところはそれとは異なっているらしく、ゲーム上の台詞でも「ここで犠牲者が出ても仕方がない」とやたらと強調される場面が多い。

「聖戦の系譜」では、やたら凝った結婚システムが、周回プレイを促す役割を担っていた。
本作では、規模的にでかいことは出来ないせいか、1周目ではわからないまま通り過ぎるようなギミックを随所に仕込んで、1回クリアしただけではスッキリしないようにして、周回プレイを促している。

ここで意気揚々と2周3周と繰り返し楽しめる人と楽しめない人にはっきりわかれるゲームだと思う。
初回プレイでクリアするだけでも結構根気のいる難易度になっているため、飽きてやりたくならないという人も多く出るだろうと感じた。あるいは購入したものの途中で脱落する人も出ているだろう。

書き換え専用として作られたため、ファン向けに普段やりにくいことを好き勝手やったゲームなんだろう。
「聖戦の系譜」と同じ世界を共有していることもあって、そっちを未プレイでもストーリーは理解できるが、内容的に興味を持ったり愛着を持つことは出来ないと感じた。
そもそもシステム的にもゲーム的にもシビアすぎるゲームを、シリーズ未経験者が手を出すにはお世辞にも適切ではない内容だし、それは狙ってやっていることだと思われる。

「体格」に伴う新システムの導入で、ゲームルールがより複雑化し、それによってとっつきが悪くなっているように感じた。
ちなみに、ゲームクリアまでの難易度は、ゲーム慣れしている人がスレスレの感覚でクリアできるぐらいなので(ヘタしたらここハマるんじゃないか?って言うところがある)、自信のない人にとってはかなりキツイゲームだと思われる。
そこで結論。

これを楽しめれば、立派なS.RPG上級者。





[2013/06/06]
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