ファイアーエムブレム 風花雪月


対応機種Switch
発売日2019/07/26
価格6980円
発売元任天堂

(c)2019 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS / KOEI TECMO GAMES
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任天堂の人気シリーズの一つ、シミュレーションRPG「ファイアーエムブレム」の新作が、Switchで発売。
完全新作は4年ぶりとなり、今回は「ファイアーエムブレム無双」でコラボを果たした縁によってコーエーテクモゲームスが制作に参加、というか、本作はほとんどコーエーテクモゲームスが実制作を行っているそうで、インテリジェントシステムズは総監督といった立場にあるようだ。
なお、「無双」つながりで、オメガフォースが製作しているというわけではなく、歴史ものと戦争ものを題材とした作品を長年築き上げてきたシブサワコウのチームによるものらしく、架空とはいえ戦記物である「ファイアーエムブレム」との親和性は高い。なぜこれまでコラボがなかったのか不思議になってしまうぐらい期待できる布陣だ。
そんな本作は育成SLGパートの追加といった大胆な改革が全体に向けて行われており、一抹の不安もよぎるところではあるが、コーエーテクモゲームスとの化学反応で、どのようなゲームへと変革を遂げたのか。そして、その完成度は如何に!?

ゲームの流れを簡単に説明すると、プレイヤーは先生という立場でゲームに参加し、最初に3つの学級からどの学級の担任になるかを選択する。この最初の選択によって、シナリオが大きく分岐する。
字面だけを見ると、「ファイアーエムブレムもとうとう安直な学園モノに身を落としたか」とさぞがっかりされるだろうが、中世ファンタジーの世界観、もっというとファイアーエムブレムの世界観を壊さず、大事にした作りを重視している。
(軽く説明すると、学校ではなく大陸のほぼ中心に位置する修道院内にある士官学校で学ぶ生徒たちという設定で、年齢にもバラツキがあり、出来る限り個性的なキャラ付けを行っている。平民だったり貴族だったり、そういう描写がファイアーエムブレムらしく描かれており、とても説得力がある)

少なくとも、風の噂に聞いていたような「安直な学園モノ」とは遠い、しっかりした作りとなっているので、そこら辺を心配する必要はないだろう。

その後は基本的に日数を消費しながら週単位で先生(自分自身)や生徒を育成する育成SLGパートが始まる。日曜日に何をするか自由に選ぶことが出来て(修道院の散策、外へ出撃、講習会の開催、休息)、週の初めに授業が始まり、個別に授業を行ったり、生徒にどの技能を鍛えさせるかなどの方針を決定する。
「ファイアーエムブレムがやりたくて買ってるのに、育成SLGがやりたいわけではない」という声は当然出るものと思う。そのため、育成SLGとしてはやりすぎなぐらい単純化されており、プレイヤーへの"負担"は驚くほど少ない。
まず、育成方針の決め方は、クラスチェンジの条件を見て、そしてそのキャラの特性に沿った技能を勉強するように設定すればよいだけで、後は自動的にその技能が伸びていってくれる。最上級職ともなると、さすがに少し頭を捻らせる必要が出てくるが、それでもどうすればよいかを迷うことは殆ど無いと思う。
また、生徒側が、「コレを学びたい!」と提案してくることがある。大概はそれに従ってればまず間違いない。

これを月末まで繰り返し、月末になると、ストーリーが進展し、バトルパートが始まるというのが一ヶ月間の流れになっている。

そして、凄いのは、この育成SLGパート、なんと、まるまるスキップ出来てしまうということだ。
スキップした分は、自動的に行動が決定されるようになっていて、育成が煩わしい人向けへの配慮をきっちりと行っている。

このように、育成SLGパートを追加したからと言って、それに強いウエイトを置くということもなく、やってもいいしやらなくてもいいというスタンスを敢えて貫いている。
しかし、やはり全部を飛ばさずに体験しようとすると、テンポが悪くなってしまっているのは本作最大の難点の一つ。

ちなみに私は、1周クリアするだけで約70時間もかかってしまい、はじめは全学級プレイするつもりであったが、「さすがに、ちょっと...」と尻込みしてしまう結果に。

プレイヤー=主人公で、本作では先生という立場である。ファイアーエムブレムは、これまでも、プレイヤー=主人公の図式を採用しようと、軍師だったりマイユニットを入れたり色々挑戦していたが、今ひとつ浮いていて成功していたとはいい難かった。
ところが本作では、生徒を導き指揮する立場としての先生という目論見は、かなり成功していることと思う。
育成SLGパートでは、時折質問される選択肢によって導き、戦場(バトルパート)では、どのように動けばいいか指示を出すという立場として生徒を導いていく。
これまでのシリーズ作品みたいに、「俺、なんでゲーム内にいるんだろう?」みたいな激しい違和感を感じること無く、ゲームの最後まで一体感を感じてプレイすることが出来た。
アバター要素も今回は一切切り捨てて、男女の性別を選ぶだけになっているのも良い。

学園モノという突拍子もない企画だが、主人公=プレイヤーをいかに成立させるかを考えた末に必然的にたどり着いたものなのではないかと思ってしまうほど。

イベント時のテキストは全てフルボイスで、少々ゲーム全体のテンポを阻害している印象はあるものの、やはりフルボイスのリッチさに勝るものはないだろう。
追加された支援会話を見ているだけで30分過ぎた、みたいな状況に陥ることもあり、良し悪しを感じる部分も無くはないのだが、勢いで「コレもアリだな!」と納得させられる。

それ以外にも、主人公を男女から選択できるが、ムービー時にもしっかり男女の性別が反映される力の入りっぷり!

というか、Switchになってからの任天堂、もっというと「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」以降の任天堂は、ゲーム1本辺りの力の入れ方が本気すぎて怖い。

バトルパートに関しては、「しっかりファイアーエムブレム」していて、安定の出来となっている。
ただ、こちらも新要素をふんだんに盛り込んでおり、武器の耐久度を多く消費して出す戦技(必殺技)と、計略というコマンドが追加された。それと、大型のモンスターとして、魔獣という特殊な敵ユニットの追加。
戦技と計略は種類が豊富なのだけども、戦技は要は強い武器をもたせれば大半が解決しちゃって、魔獣相手以外には使わない結果に。
また、計略においても、魔獣の障壁を消すために使うぐらいで、思ったほどの使い所がなかったのは残念。計略は特に使用回数が厳しすぎるので、騎士団のレベルアップで使用回数が増えるぐらいあっても良かったんじゃないかと。
魔獣という敵ユニットのルールは、なかなか面白いけれども、どちらかと言うと強くて強大というイメージよりも単に仕留めるのが面倒な側面のほうが大きかった。計略に弱いという特性のためか、(計略の使用回数に配慮してか)1マップでそんなにたくさん出てこない。フリーマップで「おおっ!?」と思うぐらい魔獣が出ることがあるのだが。
アクセントとして、本筋でも魔獣オンリーのマップがあっても面白かったかもしれない(もしかして、存在する?)

このように、バトルでも、新しい風を取り入れようと言う努力の節は感じられるのだが、失敗とまでは言わないけど成功とまでも言えないという、微妙なラインに「うーん」と唸ってしまった。

ちなみに、「ファイアーエムブレムEchoes もうひとりの英雄王」で導入された「ミラの歯車」が、本作にも名前を変えて導入されている。
どういう機能かと言うと、「待った! 時を巻き戻させて」というもので、よほど好評だったのか本作にも入っている。それ以外にも、マップ途中にダメだと思ったら撤退して最初からやり直したり出来て、「ファイアーエムブレム」も随分優しくなったもんだと肌で実感(褒めてる)。
確実に、「プレイヤーを如何にリセットさせないか」に舵が切れてる。

グラフィックは、人物画はいわゆるトゥーンシェードで描かれており、どうやらキービジュアルについては「ファイアーエムブレム無双」で使われていた手法を導入したものらしい。私は「ファイアーエムブレム無双」は未プレイなので、詳しくはわからないのだが。
今回の手法は、シリーズの方向性を決定づけるほどの力はあり、今後このシリーズのグラフィックはこの路線で行くことになりそうだ。

ストーリーは、コーエーテクモゲームスが担当しているせいなのか、ファンタジーというよりかは、しっかり戦記物しており、最近のこのシリーズでは逆に違和感さえ覚えるほど、真っ向から戦争というものを描いている。
私は3学級の内1学級しかやっていないので、全容がわからないままなのだが、かなり細かいところまで世界設定が組まれているらしく、世界設定だけでも膨大な量になりそうな感覚だ。
しかし、プレイヤーは修道院の書庫でしか世界設定を読み解く事ができない。このへんの作りが非常にぞんざいで、気になった所だ。
「人物相関図」とか「用語辞典」とか、丹念に解説されたものをメニューから見れるようにして欲しかった。どのキャラがどの地方の、どの家の出身なのかとか、結局よくわからないまま終わってしまった。まあさすがに自分の担任の生徒たちのところぐらいは把握出来た...かというと、それも結構怪しかったり。

ちょっと気になった点としては、ユーザーインターフェイスが微妙なところがある。特にステータス画面が顕著で、ごちゃごちゃと色んなものが表示されすぎ、というか情報量が多すぎ。
ただ、このシリーズは、そもそもインターフェイスが非常に良いシリーズだったので、相対的にダメに見えているだけで、出来が悪いというほどではない。
そのほか、覚えることが多くてシステムが(いい意味でも悪い意味でも)とっちらかっている部分があり、慣れるまでは多少の根気強さが求められるなど、少々敷居が高くなったような気もする。
とはいえ、結局根幹は同じゲームなので、やってみると「納得」な感じになっていけると思う。

本作は「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」の流れをくむ、「当たり前を見直す」という強い意志を感じる作品で、横でゼルダ作ってるの見ちゃったんで、こっちも負けてられない!という勢いで「トコトンやっちまった」という気合をとても感じるゲームである。
もちろん、「ファイアーエムブレム」はシリーズの歴史がある作品なので、これまでも色々と試行錯誤を重ねてリニューアルを行ってきたことはあるのだが、本作ほど根本から見直して、シリーズ伝統の殻をいい意味でぶち壊して完成度も高く仕上げてきたのは初めてなのではないだろうか。
物議を醸すような改革を行っている部分はあるが、プレイしてみると、それも必然だったのだな、と納得させるほどのクオリティの高さで、本当に感心してしまった。
敷いて言えば、ボリュームが過剰過ぎる、色々な要素を継ぎ足した結果、テンポが悪くなってしまったなどといった不満点は感じられるが、それこそ贅沢な悩みといったところだろう。
ひとまず、これだけの規模のゲームを作り上げてきたということに、称賛と拍手を送りたい。

新しいことをやっているものの、本質は「ファイアーエムブレム」そのものである。到底遊び尽くせないほどのボリュームに今すぐ飛び込め!





[2019/08/10]
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