真かまいたちの夜 11人目の訪問者


対応機種プレイステーション3
発売日2011/12/17
価格5800円
発売元チュンソフト

(c)2011 CHUNSOFT
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チュンソフトの出世作「かまいたちの夜」が満を持して復活だ!
今回は“原点回帰”をテーマに作られ、雪山の山荘を舞台にするなどシリーズ一作目を意識したゲーム内容が随所に見られる。

かまいたちの夜は、PS2「かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相」でシリーズを一度終了させた。
これには当時から「もったいねぇなぁ」と思っていた。当然会社としてもそう思っていたようで、今回ストーリーや登場人物を一新させ、ミステリの要素は残して復活した。

サウンドノベルの生みの親であり、これを作らせたら右にでるものはいないというほど、演出技巧やインターフェイスがしっかりしたものを出してくるが、今作もあらゆる部分が高いレベルで良く出来上がっている。
しかし、「かまいたちの夜」にしては、チュンソフトにしては、ちょっと粗が気になるクオリティーである。一言で言い表せば、「かまいたちの夜」ってもっと面白くなかったっけ?という感想だ。

上に書いたように、基本的に高い次元で出来上がっているのであるが、演出やシナリオ構成にキレがなくなった感じがする。

「428 封鎖された渋谷で」の時にも言った気がするのだが、BGMが無音の場所が凄く多い。
昔は、サウンドノベルと言ってもゲームなので、音楽が流れるのが当たり前という作りだった。その常識の中で、敢えて無音にするという使い分けがかなりうまかった。
無音状態にして、代わりに風や時計の音といったサンプリング音源を流す手法は、今思えばあざとさが気になるが、当時としては画期的なやり方だった。
音楽も、生演奏したものを使っているせいなのか、曲数が少ないし、どの曲も妙に上品で悪い意味でゲーム的でない。なんか、演出技巧の一つとして噛み合ってない。
普通は音楽に対してここまでうるさく言わないのだが、このゲームはサウンドノベルなので、他のジャンルのゲームと比べて、音楽の種類や流し方一つに至るまで大きな比重を占めているので指摘した。

グラフィック周りも今ひとつもったいない。バックに描かれた背景はポリゴンと一枚絵の組み合わせ、シルエットのキャラクタはポリゴンなんだけど、せっかくポリゴンを使っているのに動きのある演出が少ない。
キャラクタの動きは、ほとんどスーパーファミコン版の時みたいに止め絵を切り替えてるのばかりで、わざわざポリゴンに起こしている意味がない。
演出の付け方は細やかで丁寧なんだけど、1や2の時のように「おっ」と思わせるものがない。なんだか、物足りないのだ。

声優の起用は勇気ある決断だったと思う。いまどき声をあててないノベルゲームなんて貧相極まりないし、かといってあまりにギャルゲー的に媚びてもらしくない。この辺はかなり迷ったんではないかと思う。
結果的に、ごく一部の見せ場のシーンだけ喋らせるという位置に落ち着いている。しかし、こんなに声をあてているシーンが少ないのなら、無理に声優を使わなくても良かった気がする。少なくとも設定でオンオフ出来る機能ぐらいはつけて欲しかった所だ。
その声優も、変に有名所を使っているせいで、すでに別役でイメージが染み付いている(どっか別の作品で聞いたことある声)人が多くて、興ざめした。

メニュー画面のインターフェイスは、快適だった「かまいたちの夜2」を継承している。が、パッと切り替わっていた2と比べ、今回はフェードイン・アウトで微妙に切り替わりがトロいし、フローチャートのフラグ表示も曖昧でいい加減な所がある。
他社のノベルゲームと比較すれば、好きなシーンに即座に飛ぶことができたり、既読シーンの読み進め・読み戻し機能など、はるかに快適なのだが、チュンソフト製にしてはイマイチと感じる。

実は自分が「かまいたちの夜」で最も楽しみにしているのが、バッドエンドである。本筋の、ハッピーエンドのそれなりに納得の行くオチのついた、良くできた脚本なんてのは、他でいくらでも楽しめる。
そんなものよりも、話の途中で選択肢が出てきて、その選択によってその後の展開が微妙に変わったり、間違った行動をとって殺されてしまったり、そういうゲームでしか表現できない“いつやられるか”という緊張感に重点を置いている。

失敗した展開を楽しむというのは、ゲームでしか体験できない。今風に言えば“死亡フラグ”が立った状態で、いつどんなふうに自分は殺されてしまうのか、そんな常識はずれの展開をハラハラしながら読み進めていくところが面白いのだ。
しかし、今作では、どのバッドエンドもやけにあっさり殺されて味気ないし、選択肢が沢山あるわりに、バッドエンドに行く選択肢が少ない。おまけに、選択肢があっても、直後の掛け合いがちょっと違うだけで、全然物語が分岐しない。
特に、一番最初に遊ぶミステリー編は、原点回帰を意識しているのなら、この辺をもっと力入れて欲しかった。もうちょっとシナリオに広がりが欲しかった所だ。

画面上をポインタで調べるおさわり選択は、わざわざそういうシステムを入れた割に、反応する部分が全然ないし、当然ストーリーも分岐しない(Vitaのタッチ操作を意識して入れただけなんだろうけど)。

この手のゲームをネタバレを少なくレビューするのは難しいのだが、幾つかシナリオがあるが、どのシナリオでも感じたのだが、前半に広げるだけ風呂敷を広げておいて、それを畳みきれずに強引に終わらせるものばかりが目立った。
強いて言えば、本編のミステリー編が割とちゃんとしてたぐらいで、それでもそのミステリ編も含めて、ストーリーが説明不足なところがあり、元々そうだったのか大人の事情で端折ることになったのか、そんなこともあってなんというか食い足りない。

値段が5800円と安いので嫌な予感がしていたが、本編のみでは収録されているシナリオ数が少なくボリュームに乏しい。どうやら、ダウンロードコンテンツで追加シナリオを有料配信する商売方法を取ったようだ。
誤解しないでもらいたいのは、5800円で、大体全部のシナリオを読み切るまでのプレイ時間は20時間程度と、ゲーム1本分としては、まあ妥当な分量にはなっている。

だが、サービス精神旺盛なチュンソフトのゲームにしては、こういうやり方は“らしくない”と感じただけである。

7人も有名作家を起用しているという触れ込みだが、おそらく追加配信分も含めた内容のことを言っているはずで、本編の収録シナリオだけでは、そんなに沢山の作家を使っている感じはしない。
それにしても、恒例のクリア後のエッチなシナリオまで別売というのはさすがにちょっと、がっかり感が半端ない。

それ以外にも、シリーズ恒例のネタなんかも相変わらず入っているが、そろそろマンネリと言うか見飽きた感じで、いい加減それらにかわる新しい仕掛けで驚かして欲しい。

声優を使ったり、「みんなでかまいたち」というオンライン対戦ゲームに妙に力が入っているが、そういうところに金かけるなら、素直に本編シナリオに力入れるべきだ。

ノベルゲームは安く作れるからと、主にPC向けでギャルゲーを作ってる中小メーカーが、それを専業に成り立っているぐらいだが、
チュンソフトも、これらのノベルゲームの制作手法を見て、いかにコストをおさえて利益を得られるかをもっと研究するべきだろう。
ちゃんと研究してたら、シナリオを分割商法で切り売りしたりしないはずだし、「みんなでかまいたち」なんていうトンチンカンな企画なんて出てこない。

「428 封鎖された渋谷で」で違和感バリバリだったTYPE-MOONの隠しシナリオは、今後サウンドノベルで利益を上げるための実験的側面の強いものだと思っていた。
しかし今作を見る限り、無駄な高コスト体質は相変わらずで、それをダウンロードコンテンツの収益で埋めようという計画は、ちとずれていると言わざるを得ない。

最後に余談だが、最近、コンシューマーゲーム業界が不景気のせいなのか、名の知れた作品の新作が満を持して発売されることが非常に多いが、蓋を開けてみると作りこみが甘く、名前負けしているケースばかりである。
本格的にこの業界が斜陽になってきたんだなあと実感する。

この会社は、せっかく良質なサウンドノベルを作れるノウハウを持っているのだから、それをうまく活かせないのはもったいない。そこで結論。

ちょっとチュンソフトらしくないぞ。凡作。





[2011/12/20]
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