拡散性ミリオンアーサー


対応機種プレイステーションVita(PlayStation Store)
発売日2013/04/11
価格0円
発売元スクウェアエニックス

(c)2013 SQUARE ENIX
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スクウェアエニックスが満を持してスマートフォンでリリースしたトレーディングカードゲーム「拡散性ミリオンアーサー」。
これをプレイステーションVitaに移植したものである。

スマフォ等ケータイ向けに作られた、アイテム課金型カードゲームを、課金形態までほぼそのままコンシューマゲーム機に持ってくるのは極めて稀である。
ちなみに、現段階ではプレイステーションストアからダウンロードのみで(パッケージ版の発売も検討中とのこと)、プレイ中はインターネットへの常時接続環境が求められる。

本来ならば、ゲームクリアと位置づけられる部分までプレイしてからレビューするのが筋だろうが、ここでは開き直って、無課金でどこまで不自由なく遊べるかといった視点で書いていく。

なお、ソフトは4月11日に公開されているが、蓋を開けてみれば最初の1週間はオープンベータというオチ。
本サービスは1週間後だが、アイテム課金の機能が制限されているぐらいで、ベータテスト参加景品なんかも充実しており、実質もう本サービスのようなものと思っていい。
トロフィー機能にも対応していて、トロフィーももう獲得できる。ストーリーはトロフィー一覧を見る限り、最初から5章まで全部入っているようだ。

近年台頭してきた、携帯端末向けトレーディングカードゲームの王道的システムを踏襲した作りとなっている。
簡潔に解説すると、基本プレイ料金は無料。しかし、まともにゲームを遊ぶためには、ゲーム内通貨を現実のお金を使って買う必要がある(この通貨は、ゲームをどんなにプレイしていても手に入れることはできない)。
ゲーム内通貨を使ってできることは、ゲームを遊ぶために必要な行動力ポイントを回復できるアイテムの購入と、カードを入手するためのガチャに使える。

このゲーム、カードにはそれほど困らないのだが、無課金の場合、行動力ポイントが枯渇しがちで、自分のペースでゲームを遊ぶことが出来ない。

行動力は2種類あり、ダンジョン探索時に使うAP(アクションポイント)。探索では経験値やカード、行動力ポイントの回復などが得られる。マップをたくさん踏破すると、新しい行き先が追加されるなどの効果もある。
もう一つが、戦闘に使うBC(バトルコスト)。戦闘前にバトルコストを消費してデッキを場に持ち込むため、BCが無いと、戦闘が出来ない。
APは3分1ポイント、BCは1分1ポイント、時間で自然回復するが、回復薬を使ってすぐに回復させることも出来る。しかしこの回復薬は現実のお金を課金しなければ手に入れることができない。

ゲーム序盤こそ、レベルも小気味良く上がり、LV上がれば行動力も全回復するので困ることがない。
ウリであろう、ストーリーも最初こそテンポよく進み、一見何不自由のないゲームのように見える。

が、だいたい2時間を越えたあたりから、ストーリーを進行するための条件レベルに引っかかり、レベル上げをしなければ先に進めなくなる。
シナリオを見るために、経験値稼ぎをすることになるのだが、LV10以降から、このレベルが途端に上がりづらくなる。行動力ポイントも枯渇してきて、そもそも行動力がないとゲーム内では何もすることがなくなって、ポイントが回復するのを待つだけになる。

スマフォ等携帯端末では、無課金でも空いた時間に少し立ち上げて、すぐ終わるバトルをこなす繰り返しというのは、あまり気にならないかもしれないが、
携帯ゲーム機ではやはりこういうのは相容れないプレイスタイルだと思った。ポイントが回復するのを待って、いざゲームを始めても、2,3分で終わるような簡単な作業をこなして終わり、またポイント回復を待って...というのはやはりつらい。

カードバトルは、極めて単純化されていて、「オススメデッキを組んでくれる機能」がついていることや、戦闘がオートで自動進行することの2つによって、システムを理解してなくても遊べるようになっている。
むしろ問題なのはチュートリアルで、カードデッキの組み方や画面の見方の説明がおざなりすぎて、何をどうしたら良いかわからないまま放り出される。
画面のインターフェイスも決して良いとはいえず、膨大な情報が羅列されて、それに対する読解力をプレイヤーに投げてしまっているのはどうかと思う。

脚本は「とある魔術の禁書目録(インデックス)」の鎌池和馬が手がけており、カードの設定まで担当している。
イベントシーンは、フルボイスで、さながらビジュアルノベルのような豪華な演出になっている。出演声優も有名所を揃えており、抜け目がない。
ゲームを続けさせるための餌の一つということもあり、かなり力が入っている。
シナリオ自体も、独自設定が少々わかりにくいというラノベ的な欠点はあるものの、キャラクタの描写や話の展開は一捻りあり、なかなか良くできている。

カードの絵柄は、50名以上にも及ぶ絵師に描かせている。同社「ロードオブヴァーミリオン」と同じ手法だ。
このやり方の長所は、イラストのバリエーションが豊富で飽きない、絵師の名前だけで多くの客を引っ掛けることができる、短所は、絵柄の統一感がなくなってしまうことが挙げられる。
しかし、カード設定のフォローもあり、概ね高いクオリティをたたき出しているといえる。

先だってサービス開始していた、スマートフォン版は、どうやら悪評が絶えなかったようだ。
Vita版は、そのスマートフォン版をベースに、不評だった部分はバッサリ削り、良い部分のみを抽出し、さらにゲームバランスの改善などのテコ入れを施している。
また、スマフォ版とサーバーを共用しているのではなく、Vita版は別サーバーで遊ぶようになっている。

このように、全体的にVita版はスマフォ版とは別物で、立ち位置としては仕切り直し版といった印象が強い。
今作は「どこでもいっしょ」のビサイドが移植作業に携わっている。このタイミングでスマフォ版の運営もビサイドに切り替えて、大幅に運営体制を変更するとのことだ。

様々な点が改良され良心的になったといっても、それらは所詮スマフォ版と比べてであって、アイテム課金型ソーシャルカードゲームである根っこは変わらない。

ゲームとして面白く作りこむという趣旨は二の次で、カードコレクターのコレクション欲を刺激するために、ストーリーや世界観、キャラクタが巧みに作りこまれているだけであって、それ以上のものはない。
このゲームの場合、そういった見た目や派手さばかり重視して、あまりにもゲーム部分が適当すぎるため、逆に商売の下手くそささえ感じてしまう。
参加クリエーターを見るとニコニコ動画の色が強いが(ヒャダインをコンポーザーに起用するところなど)、おそらくは意図的なもので、比較的若年層の顧客を惹きつけるための戦略だろう。

収益構造やゲームの作り方は、既にアーケードで展開しているトレーディングカードゲーム筐体ととても近いものを感じた。
主要客となるのはカード目当ての一部のプレイヤーで、カードほしさにたくさんプレイ(課金)する。
アーケードゲームの体裁上、一応それなりにゲームを遊べるように作られていて、1ゲーム遊んだご褒美として一定枚数のカードが配られる。
ソーシャルカードゲームの場合、手軽さの観点から、凝った(複雑な)ゲームパートはいらないため、出来る限り簡素でテンポがよくなるように作られている。
カードは電子上のものなので、ダブリやいらないカードが出た場合、合成の素材(強化の道具)として使えるのが、通常のトレーディングカードゲームには無い利点だ。

客を引き止めるための強引な手法が用いられるのもアーケードゲームに近く、このゲームで代表的なものを述べると、ほとんど裸状態のねーちゃんがナビゲーションキャラとして画面に常駐し、ボディタッチが出来たりする。
一瞬足りとも無駄な場面を挟まず、テンポよくゲームが進行する。煩わしいと思われるところを極限までなくし、出来る限りゲーム画面に繋ぎとめようとする。
但し、このゲームについては、このへんのアプローチが下手くそな場面が多々見られた。カードデッキのインターフェイスの悪さや、派手なだけで単調なバトルシステムなどゲームパートからの引き込みが足りない。

Vita版では、ボタン操作に対応したと書かれているが、実際は一部の操作だけ対応していて、結局大半の場面ではタッチパネル操作になってしまっている。こういうことは覚悟していたことだが、徹底して欲しかった所だ。

ちと、文化(空気)の違うゲームなので、これをそのままコンシューマーゲーム機に持ってきても、期待通りに流行るかどうか疑問を残すところである。そこで結論。

ゲームのイマイチさを外面の豪華さでごまかしているキャラゲー止まりの作品(この内容なら素直にアニメやコミックでやったほうがいい)。





[2013/04/12]
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